貸倒損失はいつ計上すべきか?
Q:当社では、数年前に破産した取引先の売掛債権が決算書にずっと計上されています。
今期、当初の予想以上に利益が出るためこの売掛債権を貸倒損失に計上したいと考えています。
過去の売掛債権を今期に貸倒損失として計上することは問題ありませんか?
貸倒損失を計上する際のポイントを教えてください。
A.取引先の倒産等により、売掛金が回収出来ない場合に貸倒損失を計上しますが、この貸倒損失を計上する時期には十分な注意が必要です。
実際に過去、貸倒損失の計上時期について納税者と課税当局とで争われた事例が多くありますが、平成11年に破産した取引先の貸倒損失を平成18年に計上をした処理が認められなかった事例もあります。
この事案において納税者側は、「破産後も売掛金の回収を少しでも行うために経理上、売掛金を計上していたが、平成18年になって回収が困難であると判断して貸倒損失を計上した」と主張しても認められませんでした。
裁決の中で認められなかったポイントとしては、以下の点が挙げられます。
・ 法人の破産手続きは、配当されなかった債権を法的に消滅させる免責手続はない。
・ ただ破産手続き決定がされた時点で債務者である法人は消滅し、この時点において、分配可能な財産は無いことになるので、この時点で売掛金の全額が滅失したとするのが相当。
・ なお、破産の手続きの終結前であっても、破産管財人から配当金額が0円であることの証明がある場合やその証明が受けられない場合でも債務者の資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま、破産終結までに相当な期間がかかり、配当がないことが明らかな場合には、貸倒損失の計上が出来る。
貸倒損失を計上するタイミングを逃してしまうと、貸倒損失が認められないケースもありますので、その計上時期は十分に注意をする必要があります。
ですので、毎年の決算時期には貸借対照表に計上されている債権と債務については適正かどうかを、税理士任せにせずきちんと会社側で確認をしておく必要があります。
なぜなら、申告書を作成する税理士がすべてを把握しているとは限りませんし、何より貸倒損失の計上については、納税者側に「立証責任」があるからです。
単に「回収努力を行なったが、回収出来ないので貸倒損失に計上した」だけではだめで、「回収努力を行なった経緯」をきちんと記録し、証拠として残しておかなければ、税務調査や裁判では納税者側が負けてしまうケースがあるからです。
ですので、貸倒損失の計上については、「決算時期に毎年、きちんと確認をしておくこと」と「取引先に対して行なった回収努力の経緯はすべて説明出来る様に記録しておくこと」が非常に重要となります。
郵送した請求書が返送されてきた履歴や、電話をかけた記録、現地を訪問した際の状況などをきちんと記録しておき、回収努力を行なったが、回収が出来ないと適切な時期に判断をしておかないと、貸倒失は計上出来ないことになりますので、くれぐれもご注意下さい。
倒産時に自宅を守る方法
Q:先日、同業の他社が倒産をして、社長が保証人になっていたので自宅を失ったとの話を聞きました。
この話を聞いて「明日は我が身」かも知れないと思いました。
倒産時に自宅を守る方法があれば教えて頂けませんか?
A.事前に準備をしておけば、会社が倒産をしても自宅を守ることが出来ます。
平成25年に出された「経営者保証に関するガイドライン」により、金融機関は融資をする際に経営者の個人保証を極力取らない様にする流れが出来ましたが、以前として中小零細企業においては、社長が会社の融資について連帯保証人になっているケースが多くあります。
この場合、会社が経営破たんをすると、社長の経営責任を問われて自宅を手放すことになるケースもあり得ます。こういう非常事態に備えるための1つの方法として、「贈与」により自宅名義を配偶者や子供へ変えておくことが考えられます。
具体的には、婚姻期間が20年を超えた配偶者に対しては、2110万円までは贈与税が掛からず贈与が出来ます。
次に子供については、年間110万円までは贈与税が掛かりませんし、「相続時精算課税制度」を利用すれば、生涯において2,500万円までは贈与税が掛かりません。
なお「相続時精算課税制度」の概略は以下の通りです。
・贈与する(渡す)人は、60歳以上の父母または祖父母
・贈与される(受ける)人は、20歳以上の子または孫
・2,500万円を超える贈与については、超えた部分について20%の贈与税が課税される
・贈与した(渡した)人が亡くなった際の相続税計算は、贈与時の価格を相続財産に加算をして相続税を計算し、支払った贈与税があればその時点で調整される。
・この制度は選択制で、毎年の贈与か「相続時精算課税制度」のどちらかを選ぶ。
実際にどの様に贈与するかは、個別によって異なりますが、贈与をする際の自宅評価は以下になります。
◯土地:路線価をベースに土地の形状によって評価が変わる。
・ 基本的には路線価×面積
・ 路線価は「時価×80%」が基本
◯建物:固定資産税評価額
・ 固定資産税の明細に「価格」と記載されているケースが多い
・ 建築当初は建築価格の50%程度が目安
これで現時点における自宅の概算評価がお分かりいただけると思います。これを踏まえて先ほどの贈与税の仕組みを活用すると、
・ 配偶者へ1年目に2,110万円分の贈与を行う。
・ 2年目以降は、最低税率10%が適用される年間310万円の贈与を行い、20万円の贈与税を納税する。
・ 子供へは毎年310万円の贈与を行い、20万円の贈与税を納税する。
という流れで贈与を実行した場合には、5年間で贈与出来る金額は以下になります。
<配偶者>
2110万円+(310万円×4年)=3,350万円
<子供一人あたり>
310万円×5年=1,550万円
合計3,350万円+1,550万円=4,900万円
なおこの贈与に掛かる贈与税は、合計180万円になります。さらに贈与をしますから、登記費用や登録免許税などの負担は別途発生します。
この流れを活用すれば、5年で約5,000万円の贈与が行えることになります。さらに子供の数が増えれば増えるだけ、贈与出来る金額は増やせますし、自宅の評価額によってはもっと短い期間で贈与を終了させる事も可能です。
これにより冒頭に書きました、会社が経営破たんした際に自宅を失うリスクが約180万円の贈与税負担で回避出来ることになります。
もちろん単に税負担だけで考えますと、相続時に自宅の財産評価が減額される特例を適用した方が安くなるケースも十分にあり得ます。しかし多少の負担をしたとしても自宅を守る方法の一つとして、またはリスクへの備えとしては、有効な手段になり得るかも知れません。
※この記事は過去にメルマガで配信した内容です。
法改正等により、現状とは異なっている部分がある可能性がありますことをご了承ください。
2016年11月28日(Vol.211)、2017年10月16日(Vol.250)
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