業務命令の画像

社員に健康診断を受けさせないと・・・

Q: 労働基準監督署より健康診断の実施状況の報告がありませんが、どうなっていますか?

との問い合わせがありました。

社員に健康診断を受けさせていないとどのようなことになるのでしょうか?

 

A:労働安全衛生法では健康診断を受けさせる義務があります。

社員の健康診断の実施について「軽く考えている」会社がとても多いのが事実だと思います。なかなか業務が忙しくて健康診断が受けられない社員がいるということもよく聞きます。

しかし、最近の労働行政は「社員が安全に働ける環境」をとても重視しており、その調査のポイントが健康診断の実施状況なのです。なお労働安全衛生法で、「会社は社員に健康診断を受けさせる義務がある」「社員は健康診断を受ける義務がある」と決まっています。

具体的には、会社は

・ 一般の業務なら1年に1回の定期健康診断を実施

・ 深夜労働、水銀やヒ素などの有害物質を取り扱う業務等であれば、半年に1回の定期健康診断を実施

する必要があります。

もし、これを実施しない場合は(結果として、社員が受診しない場合でも)違法状態となります。そして、これを放置しておくと「最高50万円の罰金が科せられる」となってしまいます。

仮に、会社が健康診断を実施せず、社員が病気等で倒れた場合、裁判等の民事責任の判断で、会社が不利な状況になってしまうこともあるのです。健康診断を実施していない場合、仮に社員等に何かあったら、会社側の安全配慮義務違反が認められてしまうのです。

これは、会社として、健康診断を実施していた場合であっても、特定の社員が健康診断を受診しない場合も同じと考えられます。仮に、健康診断を受診しない社員に何かあった場合、会社に安全配慮義務違反が認められてしまう可能性が高くなってしまい、裁判等では会社の責任が追及されてしまう、ということになるのです。

だから、大半の社員が受診していたとしても、特定の社員が受診していなければ会社にとっては非常に不都合な事態を招く恐れがあります。

これを防止するには健康診断を受診しない社員に対し、業務命令として、受診命令を出すべきです。会社側が積極的に「受診命令」を出し、命令に従わない場合は「懲戒処分を科す」とすることも可能です。

もちろん、就業規則の懲戒処分の条文で業務命令違反に対する処分が具体的に記載されていることが前提となります。もし、この受診命令に従わなければ減給も可能ですし、毅然とした態度で臨まないと、いつまで経っても「忙しくて受診できません」となってしまうのです。

社員の健康診断に対しては下記の2点について対応しておく必要がありますので、くれぐれもご注意下さい。

・健康診断を実施し、【全社員】に受診させる

→受診しない場合は業務命令を出し、それでも受診しない場合は懲戒

→具体的な懲戒の内容を就業規則に記載しておく

・個人的に専門医の診断を受けているなら、その報告を義務づける

→就業規則や内規などに記載しておく

この2つのことができていない会社が多いことも事実ですので、必ず、これらの環境の整備をすることが必要なのです。なお、定期健康診断の費用は会社負担となりますので、併せて覚えておいて頂ければと思います。

詳しいご相談・ご質問はメール、電話にて承りますのでお気軽にご連絡下さい!

 

 

社員の転勤拒否は正当か?

Q:4月からの新年度に向けて、弊社では3月1日付けで人事異動を社内に発表をしました。

すると社員の一人が、転居を伴う異動に対して拒否をしてきました。

社員の転勤拒否は正当なのでしょうか?

転勤をさせるために必要な要件などあれば教えてください。

 

A.転勤の可否は労働契約書がポイントになります。

4月に向けて社内で人事異動を行い、体制を整えるという企業も多くあります。ただこの異動については転勤がらみのトラブルが発生するのもこの時期の特徴と言えます。

転勤は企業として「業務命令」で行うものですから、基本的には社員のわがままで拒否することはできません。ただし家族の介護や看護など特別な事情がある場合には、企業側が実施する代償措置が、社員の被る転勤による不利益と比較してどうなのか?がポイントとなります。

さらに最近では、人手不足を解消するために、社員を募集する際にいろいろな労働条件を設定しますが、その中には勤務エリアを限定して雇用するケースも多くあります。このように採用時にエリアを限定する場合には、このエリア外に転勤させる場合には社員側の同意が必ず必要となります。

この社員の転勤トラブルについては、多くの裁判例がありますので、これを確認しておくことが非常に参考となるでしょう。

あるA社の事案では、エリアを限定せずに採用した社員が、転勤を拒否したために懲戒解雇し、この解雇が無効であると社員が裁判を起こしました。

この事案では、結果的に最高裁判所では「解雇は有効である」との判断が下されています。最高裁判所は、下記の3つの要素に基づいて判断が下されました。

・ 転勤の業務上における必要性

・ 転勤目的の妥当性(嫌がらせや懲罰的なものでないかどうか?)

・ 社員が被る不利益の程度(一般的な程度なのかどうか?)

このA社では、就業規則に転勤の定めがあり、これに則って運用されていた上に、上記3点について検討をした結果、転勤命令は妥当であり、これを拒否した社員の解雇も妥当であると判断されたのです。

次に別のB社では、地域限定で採用した社員に対して転勤を命じたことが争われた事例があります。

この事例では、当初は地域限定で採用したが、現地の社員との折り合いが悪く業務上に支障を来すので、本社への異動を命じました。ところが社員が転勤を拒否したために、会社側が各種手当の増額や費用負担などを提示して、この条件を社員が了承。一旦は転勤をさせました。

ところがその後、転勤先でのこの社員は業績不振となりB社はこの社員を解雇したのですが、この元社員が転勤は無効だったとして裁判を起こしています。

この裁判では、裁判所はB社が出した転勤命令は無効として、社員の訴えを認める判決を出しています。この裁判でのポイントは以下の通りです。

・ 現地採用を条件として採用している事。

・ 転勤があり得る事を社員に明示した形跡がない事

ポイントは、雇用する際の「労働条件」として、配属や異動、転勤などをキチンと明示してその条件を了承した上で採用しているかどうかという点になります。

特に近年では、少子化や高齢化の影響により出産や育児、介護などに対する社会的な風潮が変わりつつありますので、転勤を伴う配置転換には慎重にならざるを得ません。そのためには就業規則や雇用契約書の整備は必要ですし、社員の家庭環境に配慮する人事管理も重要となってきます。

新年度に向けて配置転換に伴う労務トラブルが発生しやすい時期になりますので、くれぐれもご注意の上、ご対応くださいませ。

 

業務命令を無視する社員

Q:当社に会社の方針に従わずに自分勝手に行動する社員がいます。

会社は「業務命令」として、会社の方針に従うように指導をしているのですが、

これを無視し続けています。

他の社員だけでなく、会社全体に悪影響を与えるので解雇したいと考えていますが、解雇は可能でしょうか??

 

A.業務命令に従わない社員を解雇する事は出来ますが、一定の手順が必要です。

社内の組織改革で大胆な組織変更や人事異動・方針変更を行うケースがあります。この際に会社側の方針について行けずに戸惑う社員が出ることがあります。

この様な社員に対して、会社側として丁寧に説明をして理解させて、行動させる事は必要ですが、それらをしても対応出来ない社員に対しては「業務命令」として強制的に会社側の方針や業務に従わせる必要があります。この「業務命令」に対しても従わない社員が出てきた場合に、その社員を解雇できるのでしょうか?

実際に過去、会社の業務命令に従わない社員を解雇し、その解雇された社員が解雇は不当だとして訴えて裁判になっている事例があります。

このケースでは裁判所は、解雇は有効であると判断をしました。解雇が有効であると判断されたポイントは以下の通りです。

・業務命令の内容に妥当性があり必要な事であった。

・会社側から明確に「これは命令だ」と伝えていた。

・指導や教育は十分に行われていた。

・組織が小さく(20名程度)、解雇以外の処遇がとり難い環境である。

・業務命令に従わなかったために、会社が実害を被っている。

以上の5点になります。特に注目すべきポイントは、従業員数が20名程度の組織で、解雇以外の手段がなかったと判断されている点です。

通常、解雇に至る前に、指導や命令を繰り返し、それでも改善されない場合は配置転換等を行うなど、会社として必要な対応をしなければならないとされていますが、中小企業の場合、指導や命令は出来ても、他の業務に従事させるという配置転換が出来ないケースが往々にしてあります。

そのために、解雇もやむなしという判断になっています。逆に言えば、社内にいくつかの部署がある規模の会社の場合には、配置転換などを行って様子を見る必要があるという事になります。

繰り返しになりますが、業務命令に従わない社員が出てきた場合には、丁寧に指導し、説明をした上で、それでも従わない場合には、明確に「業務命令である」という事を伝えて従わせる必要があります。

それでも従わなければ、担当する業務を変えるなどの配置転換を行う必要がありますが、配置転換が困難な中小企業の場合には、ここで解雇を検討する事になります。

ただし、実際に従業員の解雇を検討しなければならない場合には、後々のトラブルを回避するためと、当事者間同士で感情がこじれない様にするために、労務トラブルに詳しい弁護士に相談をして依頼するのが良いかと思います。

 

 

※この記事は過去にメルマガで配信した内容です。
法改正等により、現状とは異なっている部分がある可能性がありますことをご了承ください。
2015/2/26(Vol.79)、2017/3/13(Vol.224)、2018/6/4(Vol.279)